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東京高等裁判所 昭和40年(く)95号 決定 1965年9月30日

少年 S・K(昭二三・一二・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は抗告申立人附添人弁護士斎藤治提出の抗告申立書および抗告趣意補充申立書に記載されたとおりである。

一、法令違反および事実誤認の主張について。

一件記録によれば、本件保護事件については、昭和四〇年七月二八日原裁判所において適法に審判が行なわれ、右審判期日において裁判官が本件少年院送致決定を少年の面前において言い渡して告知したことが明らかであり、罪となるべき事実およびその事実に適用すべき法令を示した少年院送致決定書が作成されていることも認められる。

しかして、少年法第二四条第一項各号に掲げる保護処分の決定をするには、罪となるべき事実およびその事実に適用すべき法令を示した決定書を作成しなければならないが(少年審判規則第二条第一項、第三六条)、その決定を告知するには、審判期日において言い渡さなければならない旨規定されているに止まり(同規則第三条第一項)、決定を告知する前にその決定書を作成し、決定原本に基づいて言い渡すべきことは要求されておらず、また審判調書には、決定をしたことを記載すれば足り、決定の内容に亘る事項を記載すべきものとは定められていない(同規則第三三条参照)。

してみれば、原裁判所が本件少年院送致決定を告知する前にその決定書を作成せず、決定原本に基づかないでこれを言い渡したとしても、何ら違法ではなく、また右決定を言い渡した前記審判期日の審判調書に、本件の罪となるべき事実およびその事実に適用すべき法令を示していなくても、何ら咎めるに当らない。

更に一件記録を精査検討してみても、原決定が審判の対象とすべきでない事実を審判し、事実の重大な誤認を冒したと認むべき廉は存しない。

二、処分が著しく不当であるとの主張について。

一件記録を精査すると、原決定が要保護性と題して説述しているところは洵に肯綮に当り、当裁判所もこれと見解を同じくするものである。要するに、少年の非行性格は、未だ思慮分別の定まらない、人格形成の途上にある少年の動向に対し慎重な配慮を欠いた両親の誤まつた放任主義が原決定の指摘するごとき少年の性格上の短所と相俟つてこれを助長し、不良交友、無断欠校、無断外泊等から始まつて遂に原決定摘示のごとき数々の非行を敢えてするに至つたものと認められるのであつて、少年のかかる非行性格は一朝一夕にしては矯正され得ないものと認められる。少年の父は、保護者としての責任を自覚してはいるが、さればといつて、今後少年を教化善導するについての具体的方針をもつているわけでもなく、少年の近親者には保護能力がなく、在宅による少年の更正には期待をかけ難いものと思料される。されば原裁判所が少年の健全な育成を図るため少年を中等少年院に送致する旨決定したことは妥当な措置であるというべく、原決定の処分が著しく不当であるとの所論は当らない。

よつて、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 坂間孝司 判事 栗田正 判事 有路不二男)

参考一

抗告理由

一、原決定は処分が著るしく不当である。

(1) 右少年に対する司法警察員の送致事実は、左の四個の非行である。

第一、昭和四〇年四月二三日送致 同年三月二三日の恐喝未遂

第二、同年六月二四日送致 同年六月二二日の住居侵人、強姦致傷

第三、同年七月二日送致 同年六月三〇日の窃盗

第四、同年七月九日送致 同年六月二七日から二九日までの窃盗

このうち、第二、の強姦致傷の事実については、少年の仲間が犯したものであり、少年はこれを共謀したとの疑いをもたれているけれども、被害者は少年の女友達であつて強姦を共謀したとすることは前後の経緯からして不自然であり、少年に強姦の意図はなくまた、第一、の事実は他の者からパーティー券の買受を強要され、その資金欲しさから白昼の午後四時過に多数の通行人のある国電駅構内において、通行中の同年輩の学生にいわゆる「たかり」をしたものでその犯情はさほど悪質のものではないと考えられる。

第三、第四、の事実は実質的には一連の行為であり、被害件数も多く犯行の態様も殆んどが駐車中の車から手当り次第盗み出すという無軌道な方法によるものであるが、主犯はAら二名の成人であり、少年は当初好奇心から誘われるままについて行つたことがきつかけとなつて結果としては右Aらの仲間となつて連続的な窃盗に加つているが、実行々為における役割はあくまでも附和随行的な見張り程度のものであつて、少年の一時の衝動にかられた偶発的な非行とも考えられないことはない。

(2) 少年には昭和三九年四月に銃砲刀剣類等所持取締法違反の非行前歴があるが、これは審判不開始の軽微なものであり、その約一年後に前記非行に及んでいる。

非行を重ねた最大の原因が交友関係にあることは明らかであるが、他面、家庭において、呉服店に勤務する実父が多忙の余り少年の生活を監督する時間的余裕がなかつたこと、実母が信仰にこり兎角少年に暖く接する態度に欠けていたこと、兄弟二人だけの実兄が大学受験の勉強に追われ少年の相談相手となるゆとりがなかつたことの嫌いがありこれが少年に不良交友を続けさせる一因となつたことは否めない。

併し、家族の者が少年のため従前の態度を更めてゆけば家庭として少年の健全な育成に支障となる欠陥はない、通常の健全な家庭である。

少年は現在一六歳で○○大学附属△△高校第二学年に在学中であり、年齢的に気分易変的な時期であるが、適当な監督者がいれば前記各非行にみられる反社会的行動の芽ばえを是正し善導しうる素地は十分にある。

(3) 司法警察員、検察官は、少年が前記第二、の強姦致傷等の事実のあつた後、間もなく、第三、第四、の窃盗の非行をなしている点を重視し、少年に反省の色なく非行反覆のおそれがあることを強調されており、原審裁判所もこの意見と考えを同じくされたものと思われるが、第二、の事実は少年の真意に反して惹起した事件であり、少年がかかる疑をかけられないよう十分自重すべき機会であつたことは否定しないまでも同事件を契機に少年に対し特段の悔悟、反省を求めることは些か当を失したものといわざるを得ない。

(4) 目下、少年の家庭は、実父をはじめとし母、兄ともに少年の保護、監督に意をつくし足りなかつた点のあることを反省し従前の態度を更めるよう一家挙つて努力しつつありかつ、客観的にも両親にかなりの保護能力が認められるのであるから、適当な専門的指導者があれば両親の監督と相俟つて少年の性格を矯正し、環境を調整し、学業を継続させることができるものと思料される。

少年院送致が、その理念とする目的は正しいものであることに疑問の余地はないけれども、実質的には重い処分であり、機会さえ与えられれば学業を終え通常の社会人として更正しうる可能性のある少年に対し、その機会を奪い去る処分ともなりかねない懸念のあることも事実である。

しかして、少年の年齢、本件非行の実情等に照して考えれば本件の少年に対し敢て少年院送致の処分をすることは不当な処分といわざるを得ない。

なお、本件第三、第四の窃盗の事実に関して、少年の行為が実質的には幇助にすぎないことは前述のとおりであり、従つて右窃盗により少年が取得したものは殆んどなく、僅かに窃取した煙草、コカコーラを仲間と分けてのんだ程度ではあるか、少年の保護者は、このうち住居氏名の判明した第三、の事実の被害者に陳謝し被害を弁償して示談を遂げていること(示談書御参照)も、保護者が少年の更正を念願し努力している事実を証する資料として斟酌すべきである。

二、抗告趣意の詳細は追而抗告趣意補充申立書を提出して陳述いたします。

参考二

抗告補充理由

一、原決定には重大な事実の誤認があるものと考える。

原決定の理由となつた罪となるべき事実の五において、原審は、少年がB、Cと共謀の上昭和四〇年六月○日午後六時三〇分ごろ○林○子を強いて姦淫し、よつて同女に会陰部腟裂傷の傷害を負わせた旨を認定されているけれども、これは、以下の理由により、事実誤認であると解され、右事実は原決定の罪となるべき事実のうち法定刑の最も重いものであり重大な誤認である。

(1)先ず、強姦を共謀したことの的確な証拠がない。

(イ) 少年は、原審における審判期日において、司法警察員の送致事実読聞きの際送致事実について否認をしていないけれども右送致事実の記載の方法から共謀の意義を十分理解していたか否か疑わしく、司法警察員に対する少年の供述調書の記載においては、終始、共謀の点を否定している。

(ロ) 本件強姦を遂げたBは、司法警察員に対して輪姦を本件少年およびCと共謀し、その実行行為の順序、方法までを予め三人で謀議した旨申立てているが(同人の司法警察員に対する供述調書記載)、その供述は以下述べるとおり極めて信用性に乏しいもので、一方、Cは右謀議の模様について、右Bが少年に対し「女の子を呼んでこれるか」ともちかけたのに対して少年が「呼んでこれる、つれてくる」と二人だけでこそこそ話をしていたと述べており(Cの司法警察員に対する供述調書第一一項)、強姦を共謀した事実はなく、むしろ、少年が親しい女友達がいることを他の二人にみせんがため、虚勢を張つて誘い出したものであることが窺える。

(ハ) Bの供述の信用性の乏しいことは左の事実によつて明らかである。

同人は、前記○林○子を強姦した唯一の者で、他の二人と共謀したと主張することにより情状の点から自己の責任を軽減せんと図つている形跡がある。

Bは右犯行の場所である住居について始めて偶然に入つたかの如く述べているけれども、前記Cおよび少年の供述調書記載を総合すれば以前から家人不在を知つて入り込んだことがあるのにことさらこれを秘している模様があること、前記Cが姦淫の状況を傍にいて終始眺めて淫行の助勢をしていた旨供述しているけれども、右Cおよび被害者○林の供述調書記載を綜合すれば、Cは室外に出てBが姦淫を遂げて終つた頃に再び入つてきたものであることが明らかであることおよびBは附近の人が不審を抱いて尋ねたのに対し親戚の者で、頼まれて来ている趣旨の虚言を述べていること等から考えその場限りの虚言を巧みに使いわける性癖を有すると思われる。

(ニ) 少年は前記二名および被害者の少女を室内に残して出かけるとき「へんなことをするなよ」と警告していること(Cらの供述調書記載)また、Bの姦淫後、室内に入つてきたとき「何かあつたな」と詰問し、Bに対して「一寸話があるから外に出ろ」と強い口調でいつていること(Cの供述調書第一〇項末尾)等を綜合すれば輪姦を共謀したとは到底考えられない。

(ホ) 被害者○林○子は少年の女友達であり、これを少年自らは立話をした程度で終り(少年および○林○子の供述調書記載)、そのあとをBに委ねて姦淫をなさしめるということは、少年が極端に荒廃した精神状態にない限り常識的には考えられず、少年にはそのような異常性は見当らない。

(ヘ) 被害者○林○子は、Bのみを告訴しており、Cおよび少年に対しては告訴をしていない。

少年がBらと共謀して右被害者を誘い出してBに姦淫せしめたのであれば、被害者自身前後の経緯からして自らその事情が判明する筈であり、これは少年に対する被害者の心情を著るしく傷つけるものであるところ、少年に対して告訴がないのはその事実がなかつたことを推測させるものである。

(2) 次に、本件姦淫の実行を遂げた者はBのみであり少年はこれをしていないことは記録上明白であるのに、原決定は少年も実行行為を共にした如く認定されている(原決定の理由の記載から明らかである)。

共謀による共同正犯の場合、各共犯者が正犯の責任を負うことは判例上確立されているところで已む得ないとしても、実行行為をなした者と自己の意思によりこれを中止した者との間には、処分の軽重を量る上において重大な県隔があるべきところ、原決定は共謀をなした者は実行行為がない場合でも、同一の構成要件該当事実の責任を負うという一事のみで、共謀をなした者が実行行為者と全く同一の行為を遂げたものの如く認定した誤りがある。

参考三

抗告追加補充理由

一、原決定には、左記のとおり、決定に影響を及ぼす法令の違反がある。

(1) 少年審判規則第二条一項の違反

本件抗告期間満了日たる昭和四〇年八月一一日午前一一時現在において、本件記録全部を精査するも決定書原本の存在が見当らない。

決定をなすときは決定書を作成すべきであるのに、これが作成されていない。

(2) 同規則第三六条の違反

昭和四〇年七月二八日の審判期日において本件保護処分の決定言渡があり、右期日の審判調書には中等少年院送致決定のあつた旨の記載はあるけれども、罪となるべき事実および適条を示された証跡が全く見当らない。

(3) 原決定には本件審判の対象とすべきでない事実を審判された疑いがあるが、前記のとおり本件決定の対象となつた罪となるべき事実が示されていないので、右事実が明確となり次第追完する。

二、原決定には重大な事実の誤認があると思料される。

原決定の理由となつた罪となるべき事実につき重大な事実誤認の疑いがあるが、現在右事実を的確に知る方法がないので、これが明らかにされ次第追完する。

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